箱玉系の概要
目次
はじめに
この記事では、箱玉系の概要について説明します。
無限に長い箱玉系
箱玉系(ball-box system、BBS)とは、セルオートマトンの一種で、有限個のボールと無限の長さを持った箱の列から構成されたものです。
各球は次のようなルールで時間発展していきます。ここで、一つの箱には、高々一つのボールしか入れられないと仮定します。
1. 1番左のボールを1番近くの右側の空いてる箱に移動させる。
2. 動かしていないボールのうちで、1番左のボールを1番近くの右側の空いてる箱に移動させる。
3. 全てのボールを動かすまで、2.をくりかえす。
一つのタイムステップ の間に、この1〜3が行われます。そして、この時間発展は可逆であることにも注意してください。(右と左を逆にすると過去方向に時間発展します。)下に例を示します。
ボールがある状態を1、ない状態を0として数列で表します。
ひとつの非自明な結果として、例えば上の例だと、初期状態では、3コの連続したボールとそれから右に4ます空いて1つのボールからなります。これをと表現することにすると、十分時間発展した後では(上の図だと)、となります。これは、任意の初期状態に対していうことができて、他の例を挙げると、で である時、十分時間発展させると、 というように、大きい順にソートされます。この連続したボールの塊をソリトンと いうこととします。
周期的境界条件(環状に並んだ箱玉系)
箱玉系は次のように、周期的境界条件によっても構成することができます。を箱の列の長さ(箱の個数)として、箱の右端と左端がつながっているとします。これは箱が環状につながっているということと同じです。これらに 個のボールを配置します。そして、無限に長い箱玉系のときと同じように、1.~3.のルールでボールを時間発展させていきます。ただし今回は、一番左や一番右といった最大を定義することができないので、時間発展の規則を次のように少し変更します。
1. 任意のボールを1つ選び、1番近くの右側の空いてる箱に移動させる。
2. 動かしていないボールのうちで、さっき動かしたボールがあった場所から1番近くの右側のボールを1番近くの右側の空いてる箱に移動させる。
3. 全てのボールを動かすまで、2.をくりかえす。
面白いことに、この規則で1.で初めにどのボールを選んだとしても、系が同じように時間発展することが知られています。また、この時間発展も可逆的です。(つまり、右と左を逆にすると過去方向に進んでいきます。)
上の図から大きなソリトンが小さなソリトンを何回も追い越していることがわかります。無限に長い箱玉系との一番の違いは、状態の種類が有限であるという点です。個の状態のみ存在しえます。なので、状態の遷移は循環的になります。つまり、有限時間の範囲で元の状態に戻ってくることができるということです。
運搬車によるBBSの局所的な記述
さて、話を無限に長い箱玉系に戻します。実は、箱玉系の時間発展は次のような”運搬車”変数を設定してあげることによって、局所的な記述にすることができます。運搬車は次のようなルールで動きます。
1.はじめ運搬車はすべてのソリトンよりも左側に、存在します。そして、運搬車に載っているボールの数を変数としてとります。はじめ運搬車にボールは載っていないとして、とします。
2. 運搬車は一マスずつ右に動いていきます。この時、動くところの状態によって、次のように運搬車とボールの数が変化します。
運搬車と出会う前の箱の中の状態(0か1) | 運搬車と出会った後の箱の中の状態(0か1) | 相互作用後の運搬車の値 | |
---|---|---|---|
1 | 0 | ||
0 | 1 | ||
0 | 0 |
- 上の相互作用にのっとり、運搬車をすべてのソリトンよりも右に来てかつ運搬車にボールが載っていない状態になるまで、運搬車を動かす。
例えば、時刻で上のようなソリトンの配置になっていたとします。この時運搬車は以下のように動きます。
自然な拡張
自然な拡張として次のようなものが考えられます。
- 運搬車に載せるボールの数を制限する。
- 箱に入るボールの数の最大値を制限する。
箱玉系の数理の解析では、このような系についてcrystalといわれる代数構造を定義することで、背後の数理構造を調べます。 この記事の目的は、箱玉系の概要を説明することなので、これ以上のことは別の記事で書きます。