箱玉系で使われるcrystal base論について
crystal base論は量子群 のの表現論として、構築されたものです。この記事では、箱玉系(ball-box system)の基本的な要素であるcrystalという代数構造と組み合わせ数Rについて量子群 の場合について説明します。
1. Crystalの定義
のcrystalの定義をします。 を添え字集合とします。crystal とは、集合と写像
の集まりで以下の性質を満たすものです。
- かつ ならば
- かつ ならば
- ならば とは同値
をのウェイトといいます。 を柏原作用素といいます。その作用、すなわち、7.の状況をと表し、これを頂点 からへ向かう「色」の矢印と見立てれば、は色付き有向グラフとして図示されます。これをcrystalグラフといいます。crystalグラフの一つの頂点から色の矢印は1つ出るか()、出てないか()のどちらかです。同様に、7.により、各頂点には色の矢印は1つ入るか()、入らないか()のどちらかです。
例
の例を挙げます。この時です。
のcrystalグラフは次のように表されます。
のcrystalグラフは次のように表されます。
q=0の場合(箱玉系の場合に相当)
に絞ると上の定義は少し簡単にできます。 を添え字集合とします。この時crystal とは、集合と写像の集まりで、以下の性質を満たすものです。
- 任意のと任意のに対して、を満たすが存在する。
- に対して、が成り立つことと、が成立することは等しい。
(ウェイト()に関する部分の定義を省きました。)
また、に対して、
を定めます。
箱玉系を構成するにあたって、と結びついている、crystalを使います。そしてのもとで、をとります。
この時集合は、次のようにして与えられます。
の各元は、ヤング盤によっても表現することができます。それぞれのについて、長さの一列の半標準盤を対応させられます。例えば、とすると、そのcrystalは、
となります。これはヤング盤では、
[1][1], [2][2], [3][3], [1][2], [1][3], [2][3]
と表せます。(各マスがボールを表していて、マスの中の数字が、対応するボールは今何マス目にいるのかということを表しています。)
は、l-foldの対象テンソル表現の基底のラベリングした
集合です。
でを
で定める写像とします。これらの写像はからに移るか、あるいはそれ以外のところに移ります。それ以外のところに移った時、に移ったと解釈します。
[tex:\varepsilon i(b),\varphi i(b) :B \rightarrow \mathbb{Z} (0 \leq i \leq n)]は、その定義により、
でを
のように表せます。([tex:\varepsilon i(x)]は、[tex:\varepsilon i ^ m (x)]が0にならないように作用させ続けられる最大の回数を表します。)
さて、任意の2つのcrystalに対して、テンソル積を定義することができます。集合としては、は直積となります。しかし、これは
crystal構造を保っています。任意のについて、の要素として、をとることができます。とします。
に対して、写像[tex:\varepsilon i(x),\varphi i(x),\tilde{e_i}(x), \tilde{f_i}(x)]は次のようにして与えられます。
ただし、とします。
このように定義してあげると、テンソル積は、crystalの定義を満たします。
(実際に1.~3.が成立します)
この構成方法を複数回用いることで、(テンソル積は結合法則が成り立つため)2つよりも多いcrystalのテンソル積も定義することができます。
crystalは、crystalグラフといわれる色付き有向グラフで表現することができます。
以下の図では、をで表しています。公理3.より、とは等価であるので、についてのみ表します。
例
[1] [2] [1]
[1][1] [1][2] [2][2] [1][2] [1][1]
[1] [1] [2] [1] [2] [2] [1] [1] [1] [1]
2. 組み合わせ
一般にcrystalとは同じ構造をしています。(同型です。) 組み合わせとは、柏原演算子の作用で結びつけられたとの間の全単射のことです。言い換えると、組み合わせは次のような関係を満たす写像のことを指します。
特殊な場合を除き、組み合わせは上の条件を課すことで一意に決まることが知られています。
定義より、が成立します。
crystal 組み合わせに対して、区分線形な式が存在します。与えられたに対して、を次のように定めます。
命題2.1
与えられたに対して、を上のように定めます。すると、次の1.,2.が成立します。
1. 全ての要素は非負です。ゆえにです。
2. によって、写像を定義します。すると、この写像は、crystalの組み合わせとなります。(すなわち、が満たされます。)
この命題は、後述する組み合わせに関するアルゴリズムを上の式(2.1)と等価であることを示すことで証明できます。
組み合わせ数に関する式は、という条件の下で次の関係式によって特徴で付けられます。
この関係は、(2.1)の式の結果として出てくるものです。
参考文献
ベーテ仮説と組み合わせ論 国場敦夫 Integrable structure of box-ball systems:crystal, Bethe ansatz, ultradiscretization and tropical geometry